天使の扉
父の車に乗って父と母と一緒に都内へと走った。

そこは高級そうなマンションだった。

「ここ?」

「ああ」



昨日は夢を見なかった。

朝起きてホッとした。
ぐっすり眠れた気がしていた。

父がインターホンを押すと低い男の声で応答があった。表札には橘と書かれている。

「お入りください」

そう聞こえると入り口のロックが外れる音がした。

エレベーターに乗って8階に向かった。


再び玄関のチャイムを鳴らした。

すぐに男が出てきた。

小綺麗な服装だという印象だった。


「お世話になります」

そう言って3人は部屋に通された。


リビングのソファにうながされて座ると男は前に座った。

「…さて、ご本人にお話しを伺おうかな。そちらの御嬢さんかな?」

綾音はどきりとした。

「綾音、話してみて?」

母にうながされて今までの夢を話した。

最後の夢は自分の意思とは関係なかったことも話した。


男は黙って聞いていて、しばらく間があって

「…ふむ」

と、言った。


「おそらく中学校に進学したことによって記憶が揺さぶられたんでしょう」


「え、でも…小学校のときは何にも…」

綾音の言葉を父が遮った。

「平沢の小学校は隣の小学校だったんだよ」

そうだったのか。だから中学になってからなんだ…


「御嬢さんはその…お父さんに特別な感情はないかな?」


3人は意味がわからず父が聞き返した。

「は?それはどういう意味でしょうか?」

「恋愛感情がありますか?」

3人は驚きを隠せなかった。

「そんな…お父さんは好きだけど…そういうのじゃなくて…」

綾音は慌てて話した。

「ふむ…そうですか…」

3人は同じことを思った。

この人に相談しても大丈夫なんだろうか…?


「では、質問を変えましょう。お父さんよりも好きな男の子はいますか?」

綾音はずばりと言われてぎくりとした。

「…い、いません…」


両親は驚いた。
好きな男の子くらいいるのかと思っていたのだ。


「それは何でだと思いますか?」

その問いに綾音は正直に答えるしかないと思った。

「お父さんより素敵な人がいないから…」


沈黙が流れた。


「ふむ。そうですか。それは…引きずられているのかもしれませんね」

「どういうことですか?」

綾音にはわからなかった。

「つまり、前世で大好きだった人がお父さんになって父親として好きだと錯覚しているということです」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

父が遮った。

「それは、つまりそのう…綾音は俺を父親ではなく男として見ているっていうんですか?」


「はい」

即答だった。

「だからこそ中学にはいって、教師としてのあなたを見て記憶がよみがえってきたのでしょう。…大好きだった人だから」

綾音には何も言えなかった。
勿論、両親もそんなはずはないと思うがすべてを否定できない。

3人は絶句していた。

すると橘が続けた。

「催眠療法をしてみませんか?」

「催眠療法?」

綾音は初めて聞いた言葉だった。

「そう、催眠をかけてかをりさんを呼び出して、かをりさんの心のケアをして大人しくしてもらうんです」

「そんなことできるんですか?」

綾音の問いに即答した。

「はい」

綾音は父に対する感情も抑えられるかもしれないと思った。確かに父は大好きだが男性とみているとは思いたくなかった。

「お願いします」

母が遮ろうとする。

「待って、綾音、よく考えてから答えを出しても…」

「だってお母さん他にどうするの?」


母は何も言えなくなってしまった。父は頭を抱えて悩んでいる。

「では、やってみましょう」

橘が立ち上がった。
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