Piano~ピアノ~
Piano:叶side⑧
***
『昨日はライブの打ち上げで飲み過ぎて、今日は二日酔いです。叶さんはお酒が呑めるほうですか? 賢一』
次の日からこういうメールが賢一くんから、マメに送られてきていた。多い日は、朝昼晩と送ってくる。
内容は大したものでないもののメアドを教えた手前、返信しなければならない。仕事の合間をぬって送信していた。
『お酒はたしなむ程度に呑みます。自分の酒量を弁えず呑む人は、社会人になれません』
忙しい仕事の中でいつの間にか、賢一くんからのメールが唯一の楽しみになっていた。さりげなく私の情報を探ったり、思いやりの言葉等々、無理に頑張っている姿が目に浮かぶ。
そんなある日、帰宅しながらメールの返信している最中に、ふと視線を感じた。
気のせいかもと思いつつ振り返ったら、電柱の影に人の気配を察知した。慌てて走って自宅に帰る。
リビングの電気をつけずに、カーテンの隙間から外を見ると、あの男がこちらを見上げていた。家までバレているとなると、前からつけられていたのかもしれない……。
史哉さんの自宅に行くときは、会社の人間に見つからないように細心の注意をはらっているから、多分大丈夫。
だけどまさか、自宅につけてくるヤツが現れるなんて――
明日賢一くんからメールきたら、一緒に帰れるか聞いてみようと考えた。
イブに代理彼氏になってもらってるのに、一緒に帰らないのはおかしいとストーカーに思われたら、襲われるかもしれないから。
次の日いつも通りのメールがきた。
内容の返事はスルーして、今日お店に迎えに来られるかと送信してみる。予想通り、OKの返事だったけど――
『お迎えは大丈夫です。お迎えついでなんですが、授業で分からない所があるので教えてもらえませんか? 賢一』
授業で分からないトコがあるだぁ!? 何とかして、自宅に上がろうというのが見え見えなんですけど。
まったく……。背に腹は変えられないとの内容の返信をした。
ストーカーよりも厄介な男にお迎えを頼んでしまったかもと少し後悔した。
会ったら、どうやっていじってやろうか考えるだけで楽しい。おかげでお店でも常に笑顔で、お客様に対応することができた一日だった。
『昨日はライブの打ち上げで飲み過ぎて、今日は二日酔いです。叶さんはお酒が呑めるほうですか? 賢一』
次の日からこういうメールが賢一くんから、マメに送られてきていた。多い日は、朝昼晩と送ってくる。
内容は大したものでないもののメアドを教えた手前、返信しなければならない。仕事の合間をぬって送信していた。
『お酒はたしなむ程度に呑みます。自分の酒量を弁えず呑む人は、社会人になれません』
忙しい仕事の中でいつの間にか、賢一くんからのメールが唯一の楽しみになっていた。さりげなく私の情報を探ったり、思いやりの言葉等々、無理に頑張っている姿が目に浮かぶ。
そんなある日、帰宅しながらメールの返信している最中に、ふと視線を感じた。
気のせいかもと思いつつ振り返ったら、電柱の影に人の気配を察知した。慌てて走って自宅に帰る。
リビングの電気をつけずに、カーテンの隙間から外を見ると、あの男がこちらを見上げていた。家までバレているとなると、前からつけられていたのかもしれない……。
史哉さんの自宅に行くときは、会社の人間に見つからないように細心の注意をはらっているから、多分大丈夫。
だけどまさか、自宅につけてくるヤツが現れるなんて――
明日賢一くんからメールきたら、一緒に帰れるか聞いてみようと考えた。
イブに代理彼氏になってもらってるのに、一緒に帰らないのはおかしいとストーカーに思われたら、襲われるかもしれないから。
次の日いつも通りのメールがきた。
内容の返事はスルーして、今日お店に迎えに来られるかと送信してみる。予想通り、OKの返事だったけど――
『お迎えは大丈夫です。お迎えついでなんですが、授業で分からない所があるので教えてもらえませんか? 賢一』
授業で分からないトコがあるだぁ!? 何とかして、自宅に上がろうというのが見え見えなんですけど。
まったく……。背に腹は変えられないとの内容の返信をした。
ストーカーよりも厄介な男にお迎えを頼んでしまったかもと少し後悔した。
会ったら、どうやっていじってやろうか考えるだけで楽しい。おかげでお店でも常に笑顔で、お客様に対応することができた一日だった。