Piano~ピアノ~
Piano:好きになってもらいたい!
 告白は大失敗に終わったが、ライブの行方に今後の全てがかかっている……と思う。

 なので俺は次の日から、ギターの猛特訓をした。そしてバイトにもしっかりと精を出す――ライブの日にちょっと高めの美容室に行き、カッコよくカットしてもらうためだ。

「頑張るのは、とてもいいことだけどさ」

 休憩中、まさやんが話しかけてきた。

「頑張る方向を誤ると間違いなく、この間のような失態に繋がるぞ」

 ニヤリと片側の口角をあげて笑いかけてきた。

 はいはい。告白しようとして、プロポーズしちゃった件ね。

 俺がむくれていると、さも可笑しそうに笑い出す。

「もう少し、余裕を持って行動しろよ。落ち着いてさ」

「余裕持ってたら、いきなりプロポーズなんかしないよ。中林さんのことを考えるだけで、いっぱいいっぱいなんだ」

 ポワーンとしている俺を見て、呆れ果ててしまったのだろう。白い目で見つめてきた。

「相手のことを想って、いっぱいいっぱいになった経験がないから、その意味がさっぱり分からん」

「そうだよね。まさやんはヤルことしか考えてないから」

「お前なぁ、人を猛獣扱いするとは失礼だぞ」

「ごめん。正確には下半身だけ猛獣だったね」

 にっこり微笑む俺は、してやったり。まさやんはなぜか否定もせずに、ガックリと項垂れている。

「きっとまさやんにもその内、その人のことで心がいっぱいいっぱいになるときが来るよ」

 ポンと肩に手を置いてみた。こんな言葉では慰めにはならないだろうけれどね。

「俺みたいに屈折している人間に、合うヤツなんて現れるんだろうかね」

「そのときはしっかりフォローするから、一緒に頑張ろう?」

 二人で顔を見合わせ、声を立てて笑った。
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