キンダーガーテン三   ~それぞれの居場所に~
「パパは………
私と……………春斗のものよ!!
取らないで!」

怒鳴り声と振りかざした手に、覚悟を決めたとき………

横に停めてあった、黒色の軽自動車の窓ガラスが

バンバンと音をたてた。

『マァマ、マァマ。』

顔を覗かせて、男の赤ちゃんが叩いている。

『はると…………』

母親の顔に戻った隙に、走って逃げる。

衣装を拾う余裕はない。

商店街の洋介さんのお店に飛び込んだ。



「いらっしゃっ…………唯ちゃん?!」

靴も片方しか履いてない唯に、ただならぬ気配を感じている。

肩を支えて、椅子に座らせると

温かいお茶を出してくれる。

ほどなくして、お店に飛び込んできた先生。

手には、さっき落としていた衣装の袋がある。

「何があった?」

何があったのかも分からない。

ただ…………怖かった。

「悠人も座りな。」

コトンと音がして………

先生の前にも、湯気の上がるカップが置かれた。

ガタガタ震える唯に

「悠人と二人で話す?
男ばかりが嫌だったら………彩を呼ぶよ?」って。

どちらも首を振って断る。

「もしかして……あの女?」

この間洋介さんに助けてもらった、お父さんの浮気相手かと聞く先生。

ギョッとする洋介さんは………

園であった、逆恨み事件の方を想像していたみたい。

彩ちゃんからは、恭子先生の事しか聞いてないから。

「洋ちゃん、悪いけど……
ここから先は、彩先生にも話さないで。」

もう一度『席を外した方が良いか?』と尋ねる洋介さんに

「むしろ居て。」と答える先生。

私の方にも顔を向け、確認を取ってくれる洋介さんは……

やっぱり大人の男の人だと思う。

「ちょっと、和君に連絡する。
洋ちゃん、唯ちゃんを見てて。」

尋ちゃんに内緒で………

先生と和也さんは、今回の事で常に連絡していたみたい。
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