キンダーガーテン三   ~それぞれの居場所に~
「お邪魔します。」

泣きじゃくる唯を抱き上げて、二階の部屋まで連れて行く。

ベットに座らせると

「ちょっと待ってて」と立ち上がる。

あれほど拒んでいたのに……。

一度甘えると、タガが外れたようになってしまう。

服の裾をつかんで「帰らないで」って呟くと

少し困ったように笑って

「どこにも行かないよ。濡れタオルを取ってくるだけ。
このままじゃ、明日目が開かないでしょう?」って

頭を撫でて、降りて行った。

……………まだ……一緒に居てくれるんだ………。

部屋に戻ると、唯を膝枕して……タオルを当ててくれる。

「今日は、ここに居るから。もう、寝なさい。」

先生の側は安心する。

落ち着きを取り戻した唯に

「唯……オレのこと………嫌いになった?」

先生は………そんな風に思ってたの?

首を振る唯の頭を撫でながら

「別れるの………………止める?」

一瞬つまったけど…。

今度もやっぱり………横に振った。

フッと笑う気配がして

「………咲先生が原因?」

また、首を振る。

「だったら…………四人?」

答えられない。

でも……

航君は…『黙ったまま別れたらダメだ』って……教えてくれた。

彩ちゃんのことは………言えないけど…

言える範囲で……言わないとダメだよね。

迷った末に………首を縦に振ったら…………

「…………………分かった。もう、聞かない。…………大丈夫。
そのかわり………オレの話しを……聞いてくれる?
オレね……………………別れる気ないから。
いくら唯のお願いでも…………それだけは、聞けない。
もしも………四人にも別れたって思わせないといけないのなら………
今度こそ徹底して
園にも、四人にも……ナイショにしようね。
バレて困るなら……結婚だってしなくていい。
秘密で……一生付き合っていこう。」

…………………どうして?………

どうして…理由も聞かないで……唯に合わせてくれるの??

どうして…そんなに……大事にしてくれるの??

もちろん……ナイショにすればいい……なんて思ってないよ。

そんな問題じゃない事だって……分かってる。

ウソついて付き合うなんて

先生や彩ちゃんだけじゃなくって……いっぱいの人を傷つける。

みんなを信じてないって…………。

……………………………………………………………………。

そっかぁ~…………分かった………………。

信じないとダメなんだ。

大切な人達だから…………逃げたらダメだったんだ………………

四人も……咲ちゃんも…航君も………

先生も…。

みんな………………大切だから………………………

…………………話し合わないと……いけないね。…………

「先生。
…………………明日………四人と話してくる。
先生にも、彩ちゃんにも………ナイショで付き合いたくない。
ズルい唯は嫌だもん。
ナイショで付き合うなんて出来ない…………。
逃げないから……………待ってて。」

あんなに答えが、見つからなかったのに……

進むべき道が見えてきたよ。

唯の出した答えに……ヨシヨシと頭を撫でてくれる。

多分……これで正解。
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