身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 カツ、カツ――。


 え?
 反響する靴音に気付き、音の聞こえる方向に首を巡らせた。

 靴音の主は、大柄な男性だった。私は縫い止められたみたいに、歩み寄る男性を見つめていた。一目でわかる、男性は日本人じゃなかった。

 それどころか男性の神秘的な色彩は、男性を人という括りにしていいのかも分からなかった。

 呆けたように見上げる私に一歩分の距離を置き、その人は立ち止まった。

 男性は二メートルに届きそうな長身で、しなやかな筋肉に覆われた引き締まった体をしている。
 そして恵まれた体格もさることながら、触れれば切れそうな研ぎ澄まされた美貌だった。

 銀にも見える淡い金髪は宵闇の中で、まるでそれ自体が発光しているかのよう。男性の紫の目は、魔力でも秘めているのだろうか。水晶よりも澄み切った紫の瞳に、本気で吸い込まれてしまいそうだと思った。

 けれど男性もまた、射抜くような強さで私を見つめながら、あと一歩の距離を詰めるのを躊躇っているようだった。

 無意識に、ゴクリと喉を鳴らした。

「あの、……っ、ケホッケホッ!」

 そうして声を掛けようと口を開いたところに、周囲に舞う石膏の粒子が喉に張り付いて、私は盛大に噎せ込んだ。

< 13 / 263 >

この作品をシェア

pagetop