身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「陛下、我々がお運びいたします」

 ……え?

「よい、手を出すな。レーナは私が抱いて行く」
「はっ」

 ……うそ、なんで?
 目の前が、絶望に塗りつぶされる。給仕の男性に向かって必死で伸ばしていた手が、力なくパタンと床に落ちた。

「私は王宮に戻る。ここは通常営業に戻せ。それから万事、上手くやっておけよ」
「はっ」

 ザイードさんの、いや、ザイード王の手が迫る。

「い、いやぁっ……」

 けれど床に重たく沈み込んだ体はもう、抵抗すらままならなかった。

 霞みゆく意識の中、ブロードさんの姿が浮かんだ。

 ぁあ、ブロードさん……。

 そうして意識は完全に、闇に沈んだ。

「……レーナ、君は無防備が過ぎる。いや、無防備なのはそんな君の一人歩きを黙認していたブロード将軍の方か……。まぁ、そんな事はもう、どうでもいい」




< 160 / 263 >

この作品をシェア

pagetop