身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい





「アボット、間違いない。レーナを攫ったのはザイード陛下だ」

 少年から距離を取ると、俺は横を行くアボットに小さく告げた。

 アボットが息を呑む気配が伝わった。

「王様ともあろう人が、人攫いみたいな真似をしてっ! どんなにレーナが心細く怖い思いをしているかっ、……許せません!! ブロードさま、一刻も早くレーナを救い出しましょう!!」

 ここから王宮までは、歩いても三十分とかからない。アボットは怒り心頭の様子で、今にも王宮に駆け出してしまいそうだ。

「待てアボット、今王宮内がどういう状況になっているかがまるで読めん……」

 最悪の場合、救出したレーナを腕に抱き、騎馬で追手から逃げる状況とてあり得る。ならば徒歩や、乗合馬車をあて込むよりは、騎馬の方が安心だ。

「……俺の屋敷に寄り、馬で向かうぞ!」
「は、はい!」

 レーナの行方を憂う屋敷の者達は、俺の姿を見れば情報を求めるだろう。けれど知らせる事で、屋敷の者達の身を危険に晒す可能性が否めない。

 俺は屋敷の者には伝えずに、王宮に向かう事を決めた。

 アボットと二人、人目を忍ぶように屋敷の主屋を回り込み、直接厩舎に向かう。そうして各々馬に跨ると、今度こそ俺とアボットは二人、王宮を目指して馬を駆った。

 途中、目撃情報に聞き込みにあたっていた屋敷の者を捕まえて、俺は捜索を一旦外れる事だけを伝言した。





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