身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい



 私は高橋怜那。

 高校を卒業して、既に二年。医学部入学を目指したが現役で敗れ、二浪して臨んだ入試だった。

 私の父は大学病院の勤務医、母もまた医師で、現在は祖父の開業する診療所で週に三日代診を務めている。

 私は三人兄妹の末っ子。
 出来の良い兄二人は、現役で国立大学の医学部に入学した。

 ずっと、コンプレックスの塊だった。
 兄たちが当たり前に出来る事が、私には当たり前じゃない。
 不出来な自分が悔しかった。

 今度こそと、我武者羅に勉強してきた。起きている時間は全て勉強していたと言っても過言じゃない。
 覚えるには人の倍、理解するには人の三倍時間が掛かった。

 人の三倍を掛けてやっと理解が出来た時には、何故もっと噛み砕いて、順を追って教えてくれないのかと教師陣を恨んだ事もある。だけど、そうじゃなかった。医学部を目指す仲間は、それで十分理解が追いついていた。

 ……あぁ、私の理解力が悪いのだ。それに気付いてからは人の二倍、三倍の努力を惜しまずにしてきた。

 けれど、現実はあまりにも無情だった。

 努力した? 頑張った? ……ううん、結果が伴わなければそんな物に価値はない。
 それが、社会というものなんだと思い知らされた。

 ……大学進学を果たせないまま、私は二十歳になっていた。
 これから私は、どうしたらいい?



 見上げた空は朝の曇天から一転し、雲一つなかった。澄みきった空気の中、遮るものなく天空に星々が煌いていた。
 目尻から一滴、涙が頬を伝う。

 その時、煌く星が天を駆けた。



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