身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「いや、アボット……」

 アボットには申し訳ないが、レーナには既にドレスから肌着にアクセサリーの類まで、俺が昨日の内に全て不足なく揃えている。

 勉強用の教材に至っても、同様だ。

「いいんですブロード様! 遠慮なんてしっこなしです!! お礼だって滅相もない!! それにほら、うちって狭っっい借家じゃないですか? 物がありすぎると、足伸ばして寝る場所がなくなっちゃうんですよ! これでやっと俺、足伸ばして寝れるってなもんですよ!」

 ……これは、とてもいらないと言える状況ではないな。……仕方ない、引き取るか。

「……そうか。では有難くいただくとしよう」

 幸運な事に、我が屋敷の納戸には十分な余裕もある。

「はいっ!!」

 俺の言葉に、アボットは満面の笑みで頷いた。

 そのニコニコとした笑みが、物凄い圧力で俺に迫る。
 声にはならずとも、アボットの目が雄弁に語る。『礼は、言葉だけなのか!?』と。

「……それから、新たに支給される従業者食堂の補助券は、俺の分もお前が受け取るといい。この礼だ」
「うわぁっ! ありがとうございます! それじゃ俺、さっそく受け取ってきますんで~」

 アボットは上機嫌で、足取り軽く執務室を出て行った。

「……待てよ。するとなにか? 俺も屋敷とここを三往復せねばならんのか!? ……いや、アボットにやらせるか? ……いや、それではまた、何を要求されるか分かったものではないな……」

 アボットが出て行った執務室で思い至った俺は、執務机の隣に移動したうず高い荷物の山を前に愕然とした。


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