独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 これは契約。それ以上を持つべきではない。

(そうよね、私を『気に入ってる』って見せたいだけだものね)

 アーベルにとっては、フィリーネを気に入っていると周囲に見せることだけが大事なのだ。それはきちんとわきまえていたはずなのに——最近、なんだかおかしい。

「お茶、冷めてしまいましたね。入れ替えましょう」

 もともとパウルスのために用意したお茶だが、彼は手を付けずに立ち去ってしまった。傍らに置いてあったバスケットの中から、新しいカップとソーサーを取り出す。

 これは、ヘンリッカが帰ってきた時に使うつもりだったけれど、今日はもうこちらに来ることはないだろう。

「いつも」

 不意にアーベルが口を開いて、フィリーネはどきりとした。

「いつも——なんでしょう? あ、お茶をどうぞ。ええと、それからこれは厨房からもらいました。こっちがチョコレートクッキーで、こっちはマカロン。それからマドレーヌにフィナンシェ——」

「なんで、お前のところにはこんなに焼き菓子が集まってるんだ」
 テーブルを見て、アーベルはあきれたみたいな声を上げた。
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