独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ライラと話をしてみればいいのに、とけろりとしているフィリーネの考えていることがアーベルにはよくわからない。
 彼女の立場からしたら、もっと焦ってもよさそうなものなのに。

(……焦る? 何のために?)

 いや、フィリーネからしたらライラを押すのは当然のことなのかもしれない。アーベルと一緒にいるのはあくまでも『契約』であって、フィリーネの気持ちは他のところにある。アーベルの気持ちを得ようなんて最初から思っていないのだから。

 そこまで考えてようやく気が付いた。フィリーネと約束した期限は、三か月。それも半ばを過ぎているということに。
 だが、フィリーネはアーベルのことなんてまったく眼中になくて——この気持ちは、アーベル自身にも納得できるものではなかった。

(……いや、気になるのは……ユリスタロ王国のことだろ。フィリーネじゃない)

 懸命に自分にそう言い聞かせる。

 フィリーネが気になってしかたないなんてありえない。きっと——将来的な国際取引や利害関係が気がかりなだけなのだ。あのレースが国内で流行するのならば、ユリスタロ王国とこの国——クラインの店ではなく——で、取引できるようにすべきだと。

 美しい品は、どこに行っても女性達の心をわしづかみにする。アーベルは自分がフィリーネを気にかけていることからは、意図的に目をそらした。
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