独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 上から声が降ってきて、フィリーネは顔を上げた。

「おい、話は聞いたぞ」
「……アーベル様」

 どうして、彼がここにいるのだろうと思った。アーベルは、ソファに呆然と座っているフィリーネの前に膝をついた。

「ライラにやられたんだって? ヘンリッカから聞いた」

 その言葉には、ただ首を横に振る。だって、これは——ライラにやられたわけじゃない。二人で引っ張り合ったから裂けてしまったわけで。自分がどうすればよかったのかも、やっぱりわからなかった。

「……フィリーネ、泣くな」

 目の前に座っている彼が、困ったような声を上げる。
 言われて初めて気が付いた。自分の目からぼろぼろと涙が流れているということに。

「こ、これは、別に泣いているわけじゃ——」

 それなら、どうしてこんなに頬が濡れているのだろう。ただ、フィリーネはぼろぼろと涙を流し続ける。

「わた、私、のせい……」
「お前は悪くないだろう」
「でも、私が——違う、私達、が——」

 違うやり方もあったのかもしれないのに、他の女性達を欺いているという意味では、アーベルもフィリーネも共犯だ。自国の利益を考えて、フィリーネは、アーベルに協力することを決めた。
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