独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「フィリーネ、そのくらいの駆け引き、どこの国だってやっているんだぞ」

 肩を震わせ、ぼたぼたと涙をこぼすフィリーネにアーベルも困ってしまったみたいだった。フィリーネの前に膝をつき、手を取って、なんとか慰めようとしてくれているみたいだ。

「お前は、悪くない——そうだろ?」
「ちがっ……私、……嘘、ついたから……」

 真摯にアーベルの気持ちを得たいと思っていた女性達からしてみれば、フィリーネのとった行動は許しがたいものだったのだろう。
 特に、ライラは国の期待を一身に背負ってここまできたのだから。

 だけど、だからと言ってユリスタロ王国の人達の気持ちを踏みにじっていいということにはならない。

「……どうして」

 かつての栄光をなくしてしまった祖国。

 冬の間は雪と氷に閉ざされてしまうそんな国で、祖父は生き残るための手段を懸命に考えた。未来のある若者を国の外に留学させて、技術を学ばせて、自国に持ち帰らせた。

 長い間——準備を重ねて、ようやく形が見えてきたところなのに。

「それなのに、こんな……こんな、ぼろぼろに」

 そうか——とようやく納得する。
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