独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 手を振り上げた格好のまま固まっていたら、笑いながらアーベルがその手を掴む。手を取られて、フィリーネは赤面したけれど、アーベルの方はまったく気にしていないみたいだった。

「わかった、言わない。ただ、そうやって民と密接にかかわってくるってなかったからさ。今回の件にしても『国のために一番適切な相手と結婚すればいい』としか考えていなくて——なんというか、このままじゃだめだと思ったんだ」

「わかった。反省なさったんでしょう? そうですよねー、アーベル様の態度って、集まってくれた女性達にものすごく失礼でしたもん。それで、私を使った虫よけ計画は終わりですか?」

 アーベルの側にいられないかもしれないと思ったら、やっぱり胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。だが、何も気づいていないふりをして、わざと話をずらす。

「そうじゃない。本当に、お前ってやつは——だから! お前を見てたら、もう少し王としての心構えを違う風に持ってもいいのかもしれないと思ったんだ。だから、今日は、その——礼のつもり、で」

 居心地悪そうにアーベルが視線をそらす。結局、彼との会話はそれきり弾まなかったけれど。

(……もう少しの間は、一緒にいてもいいのね)

 ここで彼との契約が終わらなかったことに、息をついてしまう。

 日の光が差し込むサンルームの中、二人だけの時間が静かに過ぎていく。三か月という期間が終わってしまったら——この関係も終わりだ。

 だから、あと少しの間だけ、こんな時間を楽しもうと思った。
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