独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「視察には行くぞ。それから、行事や式典で顔を合わせることもある——謁見の間で話を聞くこともあるし、あとは、そうだな。たまには俺の方から声をかけて城に呼ぶこともある。でも、お前のかかわり方とは全然違うんだと思った」

「それはしかたないんじゃないですか? だって、私の国は全部で八百人くらいしかいないんです。生まれた時からずっと同じ顔見て育ってるんです。顔を知らない人は、全員観光客か、国外から商売をしに来た人だもの。アーベル様が、アルドノア王国全員の顔と名前を覚えるのって無理じゃないですか?」

 それに、フィリーネの国では冬の間は皆で集まって、それこそ家族みたいに暮らすのだ。顔を覚えない方がどうかしている。
 皆で集まって、一緒に洗濯、掃除、それから食事の支度。レースづくりの作業の合間に、おしゃべりをして。

「少しだけ羨ましかったと言ったら、お前は笑うか?」

「なんで羨ましいんです? うちの国なんて、綺麗な景色くらいしか取り柄のない貧乏国なのに——あ、私は好きですよ? 自分の国だもの。こんなこと言ったなんて、パウルスには内緒ですからね!」

「——言ってやろうかな」
「だめです! パウルスに聞かれたら『君、一応王女なんだけど?』って言われちゃうから!」
 振り上げた手のやり場をどこにやったらいいのかわからない。相手がパウルスだったら、容赦なくひっぱたいてやるけれど、相手はアーベルだ。
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