独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 馬を下りたあと、アーベルはあっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しい。市場にはたくさんの店が並んでいて、どの店も自分の商品を売り込むのに懸命だ。

 たとえば、朝収穫した果物や野菜、港に揚がったばかりの魚に、解体して火を通せばすぐに食べられる状態に加工された肉。少し行けば、それらの食材を調理した料理や甘いお菓子を売っている場所もある。

 さらにそこを通り抜けたら、今度は日用品を売っている場所だ。普段使いできそうな安価な装身具とか、リボンやハンカチといった小物がそろう。靴を売っている店もあるし、端切ればかり取り扱っている店もある。

 どの店にもたくさんの人がいて、この国が栄えていることを如実に表していた。

「アーベル様! そんなにちょろちょろしないでください! 迷子になるでしょう」
「お前が迷子になるんだろ? 俺は、ちゃんとお前を見ているぞ」

 見ていなかったくせに、という言葉は、喉のところで押しとどめることに成功した。
 いや、アーベルが勝手に歩き回るから、フィリーネの方は彼を見失わないようにするので精いっぱいなのだ。
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