独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 こうやって、お忍びで街に出てくるのはめったにないらしく、アーベルはあちこち店を見て回るのにものすごく忙しそうで、フィリーネのことなんて忘れてるみたいだ。

「……見てないくせに」

 ぼそりとつぶやいたら、前を歩いていたアーベルがものすごい勢いで振り返った。それから、彼はフィリーネの方へ大股で歩み寄ってきて、がしっとフィリーネの手を掴む。

「なら、こうすればいいだろ?」
「こ、こうすればって——!」

 手を、繋がれた。繋がれてしまった。
 ただ手を繋ぐだけじゃなくて、指を絡めて繋いで——これって、世間ではお付き合いしている男女のみでやるつなぎ方じゃないだろうか。

 またフィリーネが真っ赤になっているのもかまわず、アーベルはどんどん歩く。こんなに急いで歩いても、人込みでぶつかることがないのは、さすがなのかもしれなかった。

「アーベル様、急にどうしたんですか?」
「俺も、お前にならってみようと思って」

 ならうって、何をだろう。こちらを見下ろす彼の目が、いつもより優しい気がして、簡単に心臓が跳ね上がる。
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