独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「最初に顔を合わせた時ね——『この人ならまあいいかしら』と思ったの。それは、お父様も同じだったみたい。それから、婚約がきちんと成立するまでの間、何度も二人で話をしたわ。どんな風に国を盛り立てていきたいのか、ではなく——どのような家庭を作りたいのか、と」
「家庭、ですか」

 あまりにも思いがけない母の言葉だった。たしかに政略結婚としては、仲がよい両親だとは思っていたが、そんなものだろうと思っていた。
 だから、自分も、国のためになる相手と結婚すれば、自動的に両親のような家庭を作ることができるのだと、そう思い込んでいた。

「あなたって——時々、ものすごく頭が悪くなるのね」

 あきれた様子で王妃は首を振る。その様子に、アーベルは唇を引き結んだ。
 正直なところ、こんな風に言われるのはものすごく面白くない。彼だって、成人して何年もたっているのに。

「あのね、私達は、公の場ではなく、私的な場でも時間を共にするの。気が合わない相手と一緒に暮らすなんて無理でしょう。それとも、あなたの目には、私達は仲の悪い夫婦に見えていたのかしら」

「いえ、そんなことはありませんが……」

 アーベルの言葉に、母は満足そうにうなずいた。
< 226 / 267 >

この作品をシェア

pagetop