独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「とにかく! 私は行きます。アーベル様は、他の令嬢達とお話なさったら?」

 精いっぱい、威厳を込めたつもりだった。

 だって、もうすぐ、決められた日が来てしまう。それなのに、アーベルときたら、フィリーネをからかってばかりで、他の令嬢達とはあまり話をしていない。

 国のために一番いい相手と結婚すると本人が決めているのならフィリーネが何か言えるところではないのだが、今のままでは選ばれた方だって納得いかないと思う。
 アーベルはみるみる不機嫌な顔になる。
(……そんな顔、しなくてもいいじゃない)

「お前は、俺が他の女性と話をしててもいいっていうのか」
「——いいに、決まってるじゃないですか!」

 これ以上、アーベルと話す必要なんてない。
 彼が呼び止めるのも聞かずに、急ぎ足にその場を立ち去り、車寄せへと向かう。
 胸のあたりが、ずきずきしているのは気づかなかったことにした。

(私は、間違ってないもの)

 フィリーネの相手なんてしている場合ではないと、本当はアーベルだってわかっているはずだ。

 馬車に一人乗るのもなんだか気が進まなかったから、御者台に座っているパウルスの隣によじ登る。パウルスはあきれたみたいに肩をすくめた。
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