独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「そこに座るの? まあ、今さらだけどさあ」
「だって、一人は嫌なんだもの」

 城に滞在している令嬢が御者台によじ登ったことに、城の使用人達は驚いた様子だった。けれど、パウルスは彼らの視線には気づいていないふりをして馬車を出してくれる。馬車を走らせながら、パウルスが問いかけてきた。

「アーベル殿下に、何か言われた?」
「……別に。何か言われたってわけじゃないの。たぶん、私が、虫よけとして役に立ってないから、嫌なんじゃないかしら」

 パウルスは鋭い。フィリーネがもやもやしているのに気づいて、声をかけてくれた。
 今の気持ちを上手に説明することなんてできない。頭の中でいろいろな考えがぐるぐると渦を巻いていて、今にもパンクしてしまいそうだ。

「それだけ? なんだか最近のフィリーネ、おかしいぞ?」
「そうかな」

 本当の気持ちを、パウルスに伝える気にはなれなかった。
 アーベルのことが好きだというのも、もう少しだけ、彼の側にいたいと願ってしまうのもフィリーネ一人のわがままだ。

 最初から彼とは三か月だけ、という約束。そもそも最初から釣り合っている相手じゃない。
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