独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 いや、よくないだろう。いくら八百人くらいしかいない国とはいえ、簡単に譲っていいはずがない。

「い、いいのでしょうか。本当に……?」

 と両親に問いかけるアーベルの方も、なんだか困惑気味だ。フィリーネは自分に注意を向けようと足を踏み鳴らした。

「その前に、誰一人として、私の意思を確認してくれないのはなんでなの?」
「——だって、お前がいやというはずはないだろう」

 あまりにも自信満々にアーベルが言うものだから、フィリーネは真っ赤になってしまった。最初から、アーベルは断られることなど想定していなかったらしい。

 どうやら、彼には一生かなわないような気もするけれど——それでもいいのではないかと思ってしまうのだから、やはりフィリーネもアーベルには弱いのかもしれなかった。

「——わかった。じゃあ、フィリーネの意思を確認する。俺と結婚するのは嫌か?」

 そう問いかけられて、フィリーネはますます顔を赤くした。正面切って問われるとなんと返事したらいいものか。しかも、両親の目の前で、だ。

「嫌なのか?」

 そう重ねて問いかけるアーベルの声には、まったく不安の色は見えなかった。やっぱりフィリーネが断るとはまったく考えていないらしい。

「……お受けします」

 小さな声でそう言うと、側で見守っていた両親がほっとしたような顔になった。
 
 
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