独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ちらりと横に目を向ければ、テーブルの上にはおいしそうなお菓子が山のように出されているのに、誰もそちらには見向もしなかった。

(別に、サンドイッチつまんでくる必要もなかったかも)

 フィリーネはするするとそのテーブルに近づいた。
 令嬢達の観察を続けながらも、頭の中は持参したドレスと他のドレスを組み合わせるので大忙しだったので、甘いお菓子で一息つきたい。

「飲み物をいただけるかしら?」

 テーブルの傍らに立っていた使用人ににっこりと微笑みかけて、香りのよいお茶のカップを受け取る。それから、手を伸ばして一口サイズのケーキを摘まみ上げた。

「ん、おいしい!」

 ユリスタロ王国にももちろん甘いお菓子はあるが、ここまで洗練された味ではない。柔らかなスポンジに、しっかりと甘いのにしつこくないクリーム。上にちょこんとのせられたチョコレートがちょうどいいアクセントだ。

「はー、幸せ」

 ついでなので、今度はクッキーに手を出した。キャラメルクリームが練り込んであって、甘みだけではなくてちょっと苦みがあるのもいい。
 それからチョコレートとバニラ、二種類の生地を市松模様に合わせて焼いたクッキーに手を伸ばしたところで、誰かに見られているのに気が付いた。
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