独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(あの人の帽子は素敵。それから、その隣の人は……スカートのフリルが華やかね)
フィリーネのドレスは、たぶん、この令嬢達の中では一番地味だ。アーベルの目に留まりたいわけではないので、なるべく目立たないところでこそこそと観察を続けることにする。
やがて登場したアーベルに、集まった令嬢達の間から悲鳴に似た声が上がる。
(……皆、ものすごい勢いね……)
フィリーネは素直に感心した。
「皆、よく来てくれた。こうして、皆に会うことができてとても嬉しい。短い期間ではあるが、わが国での滞在を楽しんでほしい」
令嬢達の熱気と比較すると、あきらかにアーベルの方は、温度が低い。国王夫妻が心配したのもよくわかる。
あっという間に彼の周囲は、令嬢達に囲まれてしまった。皆、アーベルの注意を自分に引き付けようと懸命だ。今日は、鮮やかな緑の上着を着たアーベルは、自分に何が似合うのか、たぶんよくわかっているのだろう。令嬢達の熱気にも、驚いた様子も見せない。