独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(……なんで、この人がここにいるのよ?)

 今日は、皆でアーベルを囲む会が開かれていたはずなのに、その本人がここにいるのはいったいどういうことなのだ。

(……そうよ、冷静に、冷静に対処しなきゃ)

 そう自分に言い聞かせている時点で、冷静さはかなり失われている。しかたなく、作製中のドレスに視線を落とした。

「……すみません、そこに立たれると手元が暗いので、移動していただけると助かるのですが」

 あくまでも丁寧な口調を崩さないようにして、フィリーネは言った。アーベルの機嫌をそこねるのはものすごくまずい。
 けれど、アーベルは立ち去ってはくれなかった。それどころか、正面に座り込み、フィリーネの手元を熱心にのぞき込む。

「こんなところで裁縫とはな」
「こんなところで裁縫って、ここは裁縫室ですから、他の目的で来る人は少ないと思うのですが」

 じろじろ手元をのぞかれるのは本当に落ち着かない。早く立ち去ってくれないかな、とこっそり思う。

「そんなに着飾って、俺の目に留まりたいのか? やかましい令嬢達から逃げてここに来たのに、またそんな相手に見つかるとはな」

 アーベルの口調が、あまりにも馬鹿にしているように思えたので、フィリーネもつい本音が出た。
< 47 / 267 >

この作品をシェア

pagetop