独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(……本当に、綺麗)

 うっとりとしながら、レースを見つめる。

 様々な技法を用いて織り上げるボビンレースは、作製に時間がかかるし、技術者の育成にも時間がかかる。そのため、『糸の宝石』と呼ばれるほど繊細で高価な品だ。

 フィリーネが、これと同等の品質のレースを入手することはもうできないだろう。これはフィリーネを歩く宣材とするために例外的に所持を許してもらえたものだ。販路を確保できたなら、どんどん売り出さなければならないし、とても高価な品なので、フィリーネの財力では買うこともできない。

 ボビンレースの技法は学んでいるし、自分で作ればいいという考えを持たなかったわけではないけれど、フィリーネの腕では、一流の職人には及ぶはずもない。
 レースの美しさを堪能しながらも、黙々と一人で作業を続ける。だが、フィリーネの作業は途中で中断されてしまった。

「……あら? すみません、そこに立たれるとちょっと——」

 目の前に誰か立ったらしく、手元に影が差しかかっている。フィリーネは顔を上げ、そして、言葉は途中で止まってしまった。
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