独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 だが、移動した先にアーベルはついてきた。そして、また真正面からのぞいてくる。

「あのですねえ! 邪魔しないでいただけますか? 明日のパーティーまでにこれ仕立て直さないといけないんだから!」

 あまりにも邪魔なので、つい地が出た。今までは一応取り繕ってたのに。出てしまったものはしかたない。今まで一応取り繕っていた表情を完全に崩した。

「明日のパーティーにって、俺と話すために——じゃなかったら、誰に見せるつもりなんだ?」
「集まってる女性達にですよ! いいですか、そこから動かないでください。動いたら——」
「動いたら?」

 フィリーネの脅しをアーベルが本気にしていない様子が丸わかりだったので、フィリーネは窓の方を指さした。

「そこの窓を開けて、アーベル様が裁縫室にいるって大声でわめきます。皆、あなたを探してるんですよね?」
「わかった、邪魔はもうしない」

 両手を上げて、アーベルが降参の意思を見せたので、フィリーネもそれ以上は口を開くのをやめた。口のかわりにせっせと手を動かす。繊細なレースを引っかけて破いてしまわないように、丁寧に縫い付けていく。
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