独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「……女性達に見せてどうするんだ?」
「意外としつこいですね、あなたも。このレースを見てどう思いますか?」

「どうって……そうだな、素晴らしいと思う。これほど細やかなつくりの品は、めったに見られない」
「そうですそうです、そうですよねっ! 大きな国の王太子様は、いいものを見る目をお持ちなんですねぇ……!」

 今、思いきり地を出したのは忘れたふりをして、フィリーネはにこにことした。このレースを作り上げるのに、どれだけの時間がかかったことか!
 ユリスタロ王国で作られたレースを特産品にというのは、祖父の代からの悲願だ。

「これは、我が国の職人が作った『雪の乙女シエル』のレースです。このモチーフが雪の結晶を参考に作られているので、そう呼ばれています」
「……なるほど」
「ユリスタロ湖にこういう伝説があるんですよ。恋に落ちた三人の娘に、ユリスタロ湖を治める女神が、美しいレースの作り方を教えてくれたんです。彼女達は、自分で作ったレースを身に着けて恋を実らせた——素敵なお話だと思いません?」
「くだらないな」

 懸命に、フィリーネが語るのを、アーベルは馬鹿にしたように鼻で笑った。フィリーネもむっとしたけれど、気づかなかったことにして続けた。
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