独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 庭の方から、フィリーネを呼ぶ声が聞こえてくる。

「フィリーネ様、フィリーネ様、大変っ!」
「その声はヘンリッカね。庭にいるの? 階段からバルコニーに上がってらっしゃいな」

 このバルコニーには、直接庭と行き来することのできる階段がついている。その階段をばたばたと駆け上がってくる音がしてヘンリッカが顔をのぞかせた。

「こんなところにいたのね、大変よ!」

 一気に駆け上がってきたところで、ヘンリッカは両膝を手に置き、ぜーぜーと息をつく。ヘンリッカの髪の色は、フィリーネよりいくぶん淡い金髪。瞳の色は、琥珀色だ。

「大変、大変って何が大変なのよ?」

 ようやく呼吸を整えたヘンリッカは、ちょこちょことフィリーネの方に駆け寄ってくると、両手を取ってぶんぶんと振った。

「アルノドア王国から、フィリーネ様を訪ねて使者が来たの。王太子アーベル殿下の花嫁にフィリーネ様を迎えたいって」
「……はぃ?」

 ヘンリッカに両手を振り回されながら、フィリーネは奇妙な声を上げた。
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