独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルとフィリーネが、示し合わせて揃いの服装にしてきたみたいにも見える。

「今日の服もよく似合っているな。そのレースに合わせて、上着に刺繍させてみた」
「あ、よく……はい、アーベル様もよくお似合いだと」

 どういうわけか、耳のあたりがじんとしてくる。フィリーネはアーベルから視線をそらした。なんで、こんな風に耳がじんじんするのかよくわからない。
 帽子につけたレースのかげで、表情が隠れているといいけれど。

「よし、行くぞ」

 アーベルがこちらに向かって腕を差し出す。フィリーネは少々迷って、その腕を取った。

「悪いが、今日は彼女と散歩をしたい気分なんだ。そっとしておいてもらえるとありがたい」

 集まった女性達ににっこりとしておいて、アーベルはフィリーネを引っ張るようにして歩き始めた。

「——よく、短時間で用意できましたね、その上着」
「似たような上着があったからな。刺繍は少し急がせたが——昨日一日でどうにかしてもらった」

 それにしたって、これだけの模様を刺繍するとなるとかなり大変だったとだろう。大国のお城には、すごい職人がいるのだなぁと素直にフィリーネは感心した。
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