独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 なにせ、花嫁選びに参加しているのに、相手にはまったくかまわず、販路のことばかり考えていた。それが、今こうやってアーベルの側に行くことになったのだから、何が幸運につながるのかさっぱりわからない。
(アーベル様、何考えているのかしら)

「悪い。待たせたな」

 やってきたアーベルを見上げ、フィリーネは目を丸くした。

 今日のアーベルは、フィリーネが着ているのと同じような若草色の上着を着ていた。それに茶のズボンと濃い茶色のブーツを合わせている。
 上着には金と銀で植物モチーフの刺繍が施されている。その刺繍は、フィリーネのドレスにつけられているドリーのレースと似た雰囲気に仕上げられていた。

(たまたま、お揃いの上着があったというわけじゃないわよね。ということは、王宮の裁縫師をものすごく急がせたのかしら)

 たしかに、舞踏会が終わった後、今日着る予定のドレスを数時間貸してくれとは言われたけれど、まさか、こんなことをするとは思ってもいなかった。
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