独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「俺なら、どうするんだろうな——」

 今日はフィリーネと会う予定はなかったから、令嬢達の目を逃れて図書室に逃げ込む。後で一応、挨拶だけはしにいくつもりであるけれど、囲まれるのはまっぴらだった。
 もし、自分がフィリーネの祖父、先代のユリスタロ国王だったとしたら——どう行動しただろう。

 地図を取り出して開いてみれば、ユリスタロの国土の大半を占めるのは山と広大な湖だった。夏の間は避暑地として訪れる観光客が多いことからわかるように、涼しくて過ごしやすいが、その分冬になると雪が深い。

 アーベルと一緒に過ごす時もレース編みの道具を入れた籠を持ち歩き、せっせと手を動かしているフィリーネがそんな話をしてくれたことを思い出した。

 そんな彼女の姿は、民のために力を尽くした先代のユリスタロ国王の姿をなぞっているようにもアーベルの目には映っている。
 図書室を出て、裁縫室に足を向けてみれば、床に座り込んで熱心に針を動かすフィリーネの姿。時々、侍女のヘンリッカと顔を合わせては何かささやき合う。
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