独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「子供みたいなことを言うんだな。そんなに雪遊びは楽しいか」

 アーベルが笑う。一瞬、その笑顔に見とれそうになった。

「楽しいですよ。子供達も皆、なついてくれるし」

 長い年月をかけて国が勢力を失っていく中、最後まで残ってくれた人達を裏切りたくないし、守りたいと願う。国民全員がフィリーネにとっては家族みたいなもので。

(もし、今日行く仕立屋が、このレースを気に入ってくれたら、仕立屋の方に売り込めるんだけど……)

 アーベルにとっては、たいした金額ではないだろうが彼に余計な出費をさせるのは心苦しい。上手いこと仕立屋に話を持ちかけなければと、フィリーネはあれこれと思い巡らせる。

 難しい顔をして考え込んでいるフィリーネの様子を、アーベルがずっとうかがっているのには気が付かなかった。
 アーベルがフィリーネを連れてきたのは、最近人気上昇中だという仕立屋だった。最近、王妃もこの仕立屋を城に呼んでドレスを仕立てたのだとか。国一番の人気になる日も近いかもしれない。

 店構えも立派だし、店の前の石段もほこり一つなく掃き清められている。飾られているドレスは、とても華やかで身に着けた人を美しく見せてくれそうだ。
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