独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「ほ、本当にこの店でいいんですか」
「お前、少しは俺を信用しろ」
「信用してないんじゃないんですけど、何か……ええとあれです。昨日ライラ様が言ってた……分不相応!」

 ぴしっと指を立てて宣言したら、ぴんと額を弾かれた。遠慮ないので、思わずフィリーネも涙目になる。彼に額を弾かれるのは、もう何度目になるんだろう。

「何するんですか、もうっ!」
「俺の『お気に入り』なんだから、その発言は禁止」
「禁止って偉そうに……!」

 フィリーネはむっとむくれた。アーベルとフィリーネでは釣り合わないことくらい、彼なら完全にわかっているだろう。

「——だいたい、俺とお前の関係は『契約』だ。忘れたわけじゃないだろ?」
「忘れてはいませんけど……」

 フィリーネは急におどおどとしてしまった。
 約束の期間が過ぎたなら。

 フィリーネはユリスタロ王国に帰って、きっとアーベルとはもう会うこともなくなるだろう。
 不意に、寂しさにも似た感情が押し寄せてきて、フィリーネ自身が驚く——誰かにこんな複雑な思いを抱くこと、今までなかったのに。
< 99 / 267 >

この作品をシェア

pagetop