記憶のかけら
手土産
「痛い!!」

急に、誰かに右腕を掴まれた。

あまりに突然のことで、叫び声は出なかった。



ごつごつした指が肌に食い込み、

遠慮なく力いっぱい握られた腕が痛い。

顔を見ると、目つきの鋭い強面の男が、

「静かにしろ」と低い声で囁くように命じる。



急いで西宮さんを目で探し、

私の方へ向かってくる姿を確認できたけど、

恐怖で声が出ない。



後から現れた男たちに取り囲まれ、

両腕を掴まれ、

引きずられるように歩かされる。

怖い…

訳が分からないまま、

人気のない神社の境内へ入っていく。



神殿の裏手に行き、手足を縛られ、

猿ぐつわ姿で乱暴に転がされる。

まるでモノのように扱われ、

痛いのと怖さで涙がにじむ。



これからどうなるんだろう。



男たちが私を見下ろして、話している。

初めに私の腕をつかんだ男が、リーダーのようだった。

仲間が手配している馬が到着次第、

出発すると話している。

一体どこまで連れて行くの?



男たちはリーダーを含め、3人いた。

そのうちの一人が嘗め回すように私を見て、

薄ら笑っている。

転がされた状態で、思わず身を固くする。



男が身をかがめ手を伸ばし、身体を触りだした。

気持ち悪い・・・



胸元に手を入れようとした時、

「大事な手土産だ。つまらないことはするな!」

とリーダーの男が一喝した。



男は未練たらしく文句を言いながらも、

手を引っ込め、しぶしぶ引き下がった。

束の間ほっとする。



今はまだ殺されないと思った。

でも、手土産って誰に?

私を狙ってたの?



聞こえる言葉の一つ一つが、耳に刺さる。

そのたびに身がすくみ、恐怖心がより一層募る。



辺りはだんだんと暗くなってきた。

しばらくして夜空が赤く色づきはじめた。

なんで?



空を見たリーダーの男が

「うまくいったようだな。やり易くなったわ」と言っている。

何をしたの?

なにもわからないまま、不安だけが大きくなっていく。



足を縛っていた紐がほどかれ、

立ち上がるよう指示された。

やってきた馬に荷物のように乗せられ、

「出発するぞ」とリーダーが仲間に命令をした。



その時、がさがさと草むらを人が歩く音がした。

西宮さんが男たちに捕らえられ、

目の前に跪ずかされた。



怪我をしているのか、

こめかみあたりから血が流れている。

何が起こっているの?



目が合うと、「大丈夫」と合図しているようだ。



男たちは、西宮さんを山道の案内に使って、

途中で始末すると平然と話していた。



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