記憶のかけら
願い
光明院と松姫は

秀継の幸せを心から祈っていた。



いつも松姫と光明院のことが最優先で、

もっと自身の幸せも考えて欲しいと願っていた。



櫻正宗の当主は代々「秀」を名に使う。

お舘さまが家督を継いだ時に、

「秀継」と名を改めた。



先の戦で亡くなった者達の意志を継ぐため、

戦のない世の実現に、領民へ想いを継ぐため、

櫻正宗の者がずっと笑顔で暮らせるように、

いろんな思いが込められ、

お舘さま本人が決めたものだ。



光明院も松姫も、

心身ぎりぎりのところで戦っている秀継の姿を見てきた。

決して弱音を吐かず、

自分を厳しく律している秀継を知りすぎていた。



暮らしが落ち着いてきた今、

秀継自身の幸せを一番に考えてほしかった。

心を許せる相手と夫婦になって欲しいと願っていた。



有馬から真由美を連れ帰ったのには驚かされた。

家来や領民達から伝わる話に目を見張り、

実際、真由美に会って、

見聞きした教養や知識に、

真由美の持つ素晴らしい資質に、

人柄に魅かれた。



自己犠牲を厭わず、

領民の為になることを最優先し、

櫻正宗の皆に慕われ愛されている。



秀継の進むべき方向を

照らしてくれる良き女子と思った。

何よりも、

秀継さまが真由美を望んでいると、

理解していた。



目障りな「あや」は捨て置こうと、

暗黙のうちに二人は承知していた。

誰の目にも「あや」は真由美の敵にならない。



秀継側近の一人、

御影は気が付いていた。

有馬から戻った西宮の変化に。

恋する男の勘が働いたのか、



西宮殿も恋をしているのだな。



しかし残酷すぎて、言えぬ。

自分からは何も。

西宮どの、すまぬ。



お舘さまの様子は、時々わからぬ…

真由美殿を想っておられると思うのだが、

何も行動を起こされぬ。



西宮殿と真由美殿が、

連れだって挨拶に来られた時は、

明らかに動揺されていた。

表情や態度が一変した。

でも、何も言われなかった。

何も問われなかった。

なぜだ?



それぞれの立場で

いろんな思いが駆け巡っていく。



日が暮れて、

真由美が屋敷内にいないことに、

よし乃が気がついた。

あちらこちらに聞いても、皆が知らないと言う。

おかしい…



いよいよ屋敷内の騒ぎが大きくなって、

秀継の耳にも入った。

前回真由美が拐われた記憶が甦る。



素早く兵庫の街に非常線が敷しかれた。



行ったのか!?



永遠に失ってしまったのかと恐れおののいた。

真由美をどこにも行かせない。

もう、迷いはしない。



自分の気持ちに正直に、

誰にも邪魔させない。



考えろ!

どこだ?



視察の時、高台から街を眺めていた、

真由美の姿を思い出す。



秀継は馬に乗り駆けだした。

< 52 / 53 >

この作品をシェア

pagetop