記憶のかけら
写真
庭の紫陽花が咲き始めていた。

これから色とりどりに咲くんだろうな。

紫陽花の花言葉ってなんだっけ?



さっきまでの浮かれた気持ちは

すっかり萎んでしまった。

あやに言われた言葉を反芻しながら、

庭を一人で散策していた。



日陰に小さなピンクのユリが一輪だけ咲いている。

誰にも気づいてもらえないかもしれないのに、

あなたはえらいね。

こんなところで一人で頑張ってる。



真由美は、着物の袂に入れて、

持ち歩いている携帯を取り出し、写真を撮る。



ユリがお澄まししたように、画面に収まった。

自然と笑みがこぼれ、ユリに励まされた気がした。

ありがとう。



久しぶりだ。写真撮るの。

そうだ、街の様子も撮っておこう。



こっそり屋敷を出て、

遊ぶ子ども達のくったくのない笑顔

海の幸を前に満面笑顔の漁師たち

潮干狩りをし、海藻を干す女たち

生き生きとした街の人たちを次々撮りだした。



船がたくさん浮かぶ沖合や、

人が行きかう港の様子や、

戦の時とは違う穏やかな街並み、

日常の暮らしでたなびく煙までも。



お舘さまが築き、愛してやまない街の姿を。



空が青く海も碧く、どこまでも広がっている。

本当に良い街だ。

私も守り抜きたい。

この街を。

時間を忘れて眺めていた。



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