記憶のかけら
いのちの重み
「誰か!」

「助けて!」

「火事だ!」

「早く!」

「水持ってこい!」



あちこちから叫ぶ声、

火事を知らせる早鐘の音が山村に響き渡る。



たくさんの人が四方から駆け付けた。

火の回りは早く、

あっと言う間に燃え落ちたらしい。

集落総出の火消しで、幸い延焼はなく、

死亡者ゼロ、けが人数名。



私が到着した時には、小屋はもう全焼状態だった。

いち早く助け出されたはずの子どもは、

意識がなく、息をしていない。

両親は、子どもを抱いて泣いていた。

村人たちはなすすべもなく、立ち尽くしていた。



先月、職場の救命講習会で

気道確保、人工呼吸、心臓マッサージは習った。

後輩たちは照れて、講師の呼びかけに誰も応じず、

私が人形相手に見本を見せた。



目の前でぐったりしている幼い子ども。

助けたい!

できる?!

うん、大丈夫!



そう思うより早く、体が動いていた。



気道を確保して、

何度も何度も息を吹き込み、

「戻ってきて」「いっちゃダメ」と呼びかけながら、

心臓マッサージをした。



両親や村人達は何が起きているのか驚いていたが、

子どもを助けようとしていることは伝わったようだ。

ただ、ただ静かに見守ってくれた。



重苦しい雰囲気の中、

ダメかも…と諦めかけたとき、

子どもが「ふう~」と大きく息を吐き出した。



「奇跡じゃ!」

どっと大歓声が沸き起こった。

両親も村人も私も声を上げて笑った。



月明かりがみんなを優しく照らしていた。



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