艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~

そう、きっとその言葉を聞いたからだ。
私のいないところで、あんな風に私のことを話してくれたことが嬉しかったから、今はその余韻でか素直になれた。それでもやっぱり、恥ずかしくなって彼から視線を逸らす。


頬の熱を感じながら、手の中の婚姻届けを再び畳み丁寧に封筒に入れた。膝の上には、帰りがけに買った『アジサイ』の入った手提げの紙袋が乗っていて、そこに封筒も入れて大切に両手を添える。


「今日は、帰ったらたくさん話がしたいです」


ふたりで『アジサイ』を食べながら。
父がそうしたように、今度は私から彼に自分の気持ちをちゃんと伝えよう。


父が態度を軟化させ、葛城さんに譲歩しはじめた今なら、花月庵のことから少し切り離して、私への正直な気持ちを聞かせてくれるんじゃないかと思った。
もしも聞けたら、その言葉を信じよう。



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