艶恋婚～御曹司と政略結婚いたします～
戸惑って反応できずにいると、すぐドンドンとドアを叩く音がする。


「圭くん？　大丈夫？　倒れてない？」


聞こえてきたのは、焦った様子の女性の声だった。
親しみを感じさせる言葉遣いに、それが誰だかすぐに悟る。


「今開けます」


近づいてドア越しに返事をした途端、ぴたっと音が止まった。鍵を開け、ドアを押し開ける。そこに、目を見開いて立っていたのはすらりと背の高い綺麗な人だった。


葛城さんと同年代くらいに見えるから絵里さんに間違いないと確信する。手にビニール袋を提げて、大きく目を見開いていたその人は、私と目が合うとすぐに表情を引き締めた。


「失礼致しました。社長の奥様でいらっしゃいますか」

「はい。どちらさまでいらっしゃいますか？」


まだ届を出す前だけれど、奥様、というワードに得られる僅かな優越感にしがみつく。
だけど、そんなものはすぐに掻き消えた。
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