艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~


「申し遅れました。私、安達と申します。葛城社長の秘書を勤めております」


私に向かい腰を折り、名刺を差し出される。


しっかりしなければ、とぐっと唇を噛んでお腹に力を入れ、涙を堪えた。
だけど、泣きすぎてまだ頭がぼんやりと膜がかかったようになっている。


ハンカチを膝に置いて受け取った名刺を暫く眺める。


「……秘書?」

「はい」


確かに名刺の所属欄には総務部秘書課勤務と書かれていた。


「……葛城さんの?」

「そうですが」

「だって、御手洗さんが……」


御手洗さんが、葛城さんの秘書じゃなかったの?


そう問いかけそうになり、葛城さんと柳川さんの会話を思い出した。
そういえばあの時、柳川さんから逃げ出す機会を探すのに必死でほとんど聞き流してしまっていたけれど。


知人の会社に預けた、と言ってた。
御手洗さんが抜けた後の秘書がもう決まっているということだろうか。
それとも、彼女が来たのは最近のはずだから、それ以前の秘書が安達さんだったのか。

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