艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「練り切りですか?」
「そう。お義兄さんの新作和菓子。今日は、君にこれを見せたくて楽しみにしてた」
「兄の?」
彼の手が、そっと化粧箱を開ける。
「……綺麗!」
箱の中にふたつならんでいたのは、秋の練り切りだった。すすきの穂のような薄黄から、紅葉を思わせる赤へ鮮やかなグラデーション。赤い紅葉の小さな飾りが、中央に乗せられていた。
「菓名は『葛城』。葛城山のすすきと紅葉を表現してるそうだよ」
「……『葛城』?」
頭に浮かんだのは、あの日立ち聞きしてしまった大田原様の茶会のお菓子のことだった。
「秋の茶会の主菓子に使われることに決まった。お義兄さんに任せると望月さんの許可も得た。どういう意味かわかる?」
わからない、と首を振ると彼は優しく目を細める。
「この先をお義兄さんに一任していく、という意味だ。代替わりを機に、花月庵と葛城で手に手を取ってやっていこうと全面的に認めてくれた」