艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「やば、遅れそう」


大学を卒業して二年、百貨店の販売員をしている。
早番だった今日は午後五時に終わるはずだったのだが、間際になって来客が集中し、三十分近く残業になってしまった。


予約の入っているレストランは、駅のコンコースを突っ切った先の三ツ星ホテル最上階にある。急ぎ足で向かって、約十分、といったところだろうか。


百貨店の更衣室で、それなりのワンピースには着替えておいた。ミディアムロングの薄茶の髪も、今日はシックに後ろで編み込み、アップにしてある。ヒールが傷んでしまいそうだとヒヤヒヤしながら、道を急いだ。


この頃、両親や兄がピリピリしているのだ。店の経営状態があまりよくないのかもしれない、と推測はするけれど、私が口を出せることではない。


せめて祖母のお祝いにみんなで食事をすれば、少しは空気も和らぐだろうか、と私が今回の食事会を計画したのだが。


その私が遅れたのでは意味がない。

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