Jewels
金金剛と翠玉が遠乗りへ行っている頃、琥珀は採掘場に戻っていた。

琥珀と馴染みの採掘工、瑪瑙(メノウ)は、琥珀に事の顛末を聞くと、呆れた様子で声を上げる。


「それじゃ、金剛のやつ紅玉様をお前に押し付けて逃げたってのか?」

「ああ。あれじゃあまりに紅玉様が可哀想だ。」


琥珀は相変わらず無力感に包まれている。

琥珀の様子に構わず瑪瑙は皮肉めいた口調で琥珀に囁く。


「一般市民に想いを寄せられてもなぁ。」

「何が言いたい?」


琥珀が苛つくように睨むと、瑪瑙はひるむ様子もなくあっさりと答えた。


「不毛な片思いだな。」


琥珀は正直でわかりやすい。
瑪瑙の様な人間からすると、解りやすすぎるのだ。

琥珀は全て見透かされていることが解って、ため息をつく。


「金剛も、わかっていたのかな。」

「知らないわけがないだろ。知らずにやってんだったら、王族の姫を一般庶民に押し付けて逃げるだなんて、そりゃ相当失礼な奴だ。」

「知っていてやったとしても、無神経だ。」

「そうか?お前の恋を成就させてやろうとしてるんだ、気が利いてるんじゃねぇか?」


やり場が無く、抑えていた怒りが、琥珀の胸に圧しあがってくる。


「紅玉様のお気持ちはまるで無視なんだぞ!?」

「…そうかな。」

「え?」

「まるで無視とも言えないんじゃねぇか?ふたりは婚約者だが、お互いが好きでそうなったわけじゃない。婚約者の立場に固執するプライドが、紅玉様を駆り立てているような気もするな、俺には。」


王族の世界の内情をすらすらと推測する瑪瑙を、琥珀はいぶかしげに見つめる。
この男、平民でありながらこういう情報に異常に強いのだ。


「どこで聞いた?そんな話。」

「ん?まあ噂だ。」

< 32 / 72 >

この作品をシェア

pagetop