いちばん近くて遠い人
 南は帰る頃にだけ顔を出して帰っていった。

 サボるような奴じゃない。
 俺が行かなさそうなどこかの会議室で事務処理をしていたのだろう。

 その後ろ姿を眺めても何か言えるわけがなかった。


 帰り道。ため息を吐きながら頭をかく。
 空から月が俺を見ていて、月にまで笑われている気がした。

「加賀さん!」

 コンビニから出てきた人影に呼び止められても、その声に振り向けれない。

 どうしてここに…………。

「やっぱり体調が悪いんじゃないですか?
 らしくないです。」

「俺らしいってなんだ。」

 振り向いてわざと嫌味っぽく言い放つ。

 南の相手は俺じゃない。
 俺じゃないんだよ。

「それは………。」

 困ったように口ごもる南を置いて自分は歩き出す。
 けれど南はめげずについて来た。

「心配なんです。
 加賀さん、自分でも気づかずに無理しそうだから。
 マンションまで見送るだけでも………。」

 こいつ………。
 お人好しにもほどがあるだろ。

「さっきので懲りてないのか。
 俺はあんなこと簡単に出来る男だぞ。」

 南は何も言わない。
 けれどついて来るのもやめない。

「だいたい前に散々な言われようだったろ。
 息をするように女と寝るだとか。」

 南の方を見れば、純粋な眼差しを向けて頷いた。

 なんの……頷きだよ。

 立ち止まって言葉をこぼした。

「そうなってもいいのかよ。」

 南はためらいがちに頷いた。

 それを見て、深いため息を吐く。

「………もう限界なんだよ。」

 南の手を取って人通りの少ないビルの陰へと引き入れた。
 そして南の俯く顎を持ち上げる。

 目を丸くした南へ唇を重ねて深いキスをした。







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