鵲(かささぎ)の橋を渡って
鵲の橋を渡って

暗闇の中で癒しの光を

そのとき、医局の電灯が消えた。伊織が消したのだ。

「やめて……やめてよ、牛込。もう、私はあのときの美月じゃないの」

「じゃあ、なぜ旧姓の七瀬という苗字で働いている?僕たちはまだやり直せる……」

伊織はこんこんと説く。だが、彼は暗闇に乗じて美月を奪おうとはしなかった。それが、美月の夫へのあてつけでもあった。美月にも伊織の優しさは痛いほどに心に沁みた。傷ついた美月の心は、月明かりにぼんやり浮かぶ変わらぬ伊織の笑顔と言葉がじんわりと癒してくれた。

どんなに伊織の胸に飛び込んで泣きたいか。つらいと訴えたいか。だが、美月は耐えた。耐えることでようやく生きてきた結婚生活と同じように。幸せはもうとうの昔にあきらめていた……。




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