王子様と野獣
「うん。まあ、座ったらどうだ」
「はい。失礼します」
あさぎくんがソファに座り、私も座ろうとしたら母親に「お茶を運びなさい」と怒られる。
だってー、あの状態の父さんとあさぎくんふたりにするの気が引けるんですけど。
「ねぇねぇ、大丈夫かなー」
カウンターキッチンからソファで向かい合う二人を覗く。
お母さんはあっけらかんと笑いながら、言う。
「あれでも、お父さん頑張ってるんだから勘弁してやって」
「うそぉ。かなり大人げないよ」
「逃げ出さずにちゃんと家にいたじゃない」
逃げ出すような父親、こっちから願い下げだよ。
お茶を入れ終え、持って行ったとき、ちょうどあさぎくんが頭を下げるところだった。
「百花さんとお付き合いさせていただいてます」
「……幸紀はなんて言ってる?」
「百花さんはうちの店にも遊びに来てくれるので、俺の両親とは顔見知りです。ふたりとも、モモちゃんの素直さをとても気に入っていて。……おじさんとおばさんが愛情いっぱいに育てたんだなって感じています」
なんだか気恥ずかしいことを言われて、私が動きを止めると、あさぎくんは余裕の表情で微笑みを向けてくる。
すごいな王子スマイル。私の後方に隠れている十和なんて悶絶してますけど。
「……くっ、そうだ。百花が生まれてから二十二年、産声の激しさにビビったのも懐かしい思い出だ。お前にわかるか、初めてパパって言った日の感動が……。語りだしたらキリがないがな、保育園に入れた日はそれはそれは泣いてだな……」
「やめて、お父さん。恥ずかしい」
「いや、いいよ。聞きたい」
あさぎくんはやんわりと私をなだめ、お父さんに先を促した。