王子様と野獣

嘘をつくのは気分が良くない。
本当は、今までためていた貯金が底をつきそうで、切羽詰まって決めた仕事だった。

小さな会社でわけも分からないままやっていたパソコン業務を、『得意です』みたいに言って職をゲットしたことも後ろめたい。
だけど、できないといえば今どき仕事なんてない。私にはまず先立つものが必要なんだもん。


「……はあ」


思えば私は短気すぎるんだよなぁ。

前の会社は、経理専門学校を卒業した後に入社した。

学んだのはショップマネジメントコースで、私は職人さんが作るような希少価値の高いものを、営業が苦手な職人さんたちに変わって、売り出すような仕事がしたいと思っていた。

決まった就職先は、『みやむら工芸村』という体験館を経営している家族経営の小さな会社で、自社で職人を雇い、工芸品を販売したり、体験教室を開いたりしていた。

私は、そこでなぜかネット販売担当として採用された。その会社はネット販売に乗り出すのは初めてで、ノウハウがなかった。そして私は新卒で実務経験はないし、別にパソコン作業が得意ってわけでもなかった。
すべての業務がわけがわからなかった。誰かに聞くこともできない。焦ったけれど、訴えても上司は『若い子は機械得意でしょ』と言うだけ。

必死だったよ。
とにかく、自分の力で稼ぐんだって思って頑張った。
だけど、やっぱりわからないことだらけで、教えてくれる人もいなくてって状態はきつかった。


その時によく相談にのってくれたのが里沙先輩。事務の人だったけど、私の泣き言を聞いていつも励ましてくれた。
その里沙先輩が、社長子息である部長からセクハラを受けているのを知って、我慢できなくなっちゃったんだよね。
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