花瓶─狂気の恋─
「矢内さん大丈夫?顔真っ青だけど....どこか具合悪いの?」
「あ...い、いいえ。大したことじゃないので。」
「そっか....なんか相談したいことがあったら言ってね。同じ部活仲間なんだから。」
笑顔を向けた真帆に桃は恐怖しか感じていなかった。これが演技だと思うとどれ程恐ろしいか。だが、本当に知らないのだとしたら正に天国。
天国と地獄の境目に桃は立たされ、真帆ごその審判だった。
桃は喉にひっかかりそうな粘り気のある唾を飲みこむ。心の準備が出来た訳では無いが、ここが審判の時と桃は感じていた。
「か、神崎さんは...本当に誰に刺されたかって覚えてないの?」
「う〜ん....覚えてないっていうか見えなかったんだ。刺された激痛で視界がぼやけてたし、何か言ってたような気がするけど全然聞こえなかったし...」
桃の心の枷が音を立てて外れた。次第に身体が軽くなり、今にでも空を飛べそうな感覚。
「よく覚えていない」ではなく、「見えていない」「聞こえない」なのだ。
真帆自身の口から自分の事が喋られるという危険から脱する事が出来たのだ。
「そうなんだ。早く見つかるといいですね。犯人。」
「本当にね....あ、もうこんな時間...じゃあそろそろ私行くね。」