運転手はボクだ
「まだ、みんな会って日が浅いんだ。芽生えた気持ちはこれからなんだ。
恋の始まりは一番楽しい時じゃないか。私は毎日楽しくて仕方がないんだ」

「はい。え、あー、はい」

「そのうち、修羅場になるかも知れないがな」

…んー。そこまではならないでしょ。
…確かに。毎日、何かと楽しい。

「で、どうする?」

「はい?」

「…空いてるかな…こんな日は一杯かも知れない。ど~んと花火を打ち上げる日だからな~」

「…はい?」

「ん?」

…ハ、ハ、ハ。学習しよう。先に反応して答えるのは止めておこう。それが無難。

「恵未ちゃんはできるの?」

はい?

「ん?脱がした浴衣は自分で着られるの?」

はい?脱いだ、ではなく、脱がした。…ストレートにきましたか?

「脱がなければいいことです」

「そうだな。…着られないんだな?」

「え?は、い。残念ながら着付けは…」

それが…何ですか?

「浴衣程度なら簡単だ。覚えるといい」

「あ、はい。そうですね」

自分で着られるようになれるといいんだ。要は帯よね、帯。

「じゃあ、練習しに行こうか」

「…え?…え゙?」

それって。脱ぐって事…。某所で?って事…ですよね?

「ハハハ。嘘だ。本当だ」

…もう。

「どれ…、屋台、行ってみようか。チョコバナナとか、千歳好きじゃないか?」

フ…フフ。もう、なんだかんだ言って、社長だって千歳君の事、気にかけてるじゃないですか。

「好きだと思いますよ?千歳君とくれば良かったですね」

「やきもちか?」

「えー?…千歳君は一番大人で、ダンディーで。可愛くて堪らないです」

「…なんだ。やきもちは私に妬かせるのか」

「それは知りません。気持ちは解りませんから」

「そんな事…ないだろ…」

あ。…ん、…ん。こんな場所で…いきなり、なんて事を…。

「…君は無意識に煽る…私だってこのくらいはする。したくなるじゃないか。君が悪い…気を逸らせるような事を言うからだ。
私は千歳と違って、正真正銘、大人の男だからな。鮫島とも違う。今日だって、私にみすみす譲り直したりして。…馬鹿だよな、鮫島は。…何を思ったか知らないが…。
モノにするチャンスを逃すなんて。
私はちゃんと毎日、ちょっとずつ攻めてるだろ、公に……恵未…」

首を捻られてまた強引に唇を合わせられた。…私は。
胸を押して俯いた。

「…馬鹿ではありません。鮫島さんは何より…一番に千歳君なんです。…大事な…大事な大事な息子だからです。
社長だって…わざと強引にこんな事…。私、社長の事はよく解るんです。
社長の方が馬鹿です。…馬鹿。もっと自分を大事にすればいいのに…」

こんな風にしても駄目ですよ。解るんです、わざと強引なことばかりして、嫌わせようとしてる、そんなつもりじゃないけど、そんなつもりに取れるように、って。
…天邪鬼ですか?それともやっぱり私の自惚れですか…。
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